チェシャ猫の消滅定理

数学にプログラミング、素敵なもの何もかも。

2022 年、アウトプットの思い出

こんにちは、チェシャ猫です。2022 年中は大変お世話になりました。本記事では自分自身への備忘も兼ねて、本年度の対外的な発表についてまとめておこうと思います。

2022 年の活動実績

2022 年の登壇は 3 件でした。うち(先着や抽選ではなく)CFP に応募して採択されたものは 2 件です。以前は頻繁に登壇していた LT の回数を今年はかなり控えていたこともあり、件数としては少ない水準となりました。

賢く「振り分ける」ための Topology Aware Hints

Kubernetes Meetup Tokyo #52 での発表です。

Kubernetes の Service に対するトラフィックを、ネットワーク的に近い Pod に対してルーティングする機能、Topology Aware Hints を解説しています。具体的には Node に対する Label で表現された各 Zone に対して、その Zone に存在する Node の CPU 数の比によってトラフィックのルーティング先が決まります。ルーティングのロジックはやや複雑ですが、もし興味があればスライドを参照してください。

ちなみに、Kubernetes においてネットワークトポロジに応じてトラフィックを操作する仕組みは、今回の Topology Aware Hints 以前にも、いくつかの KEP で提案され没になっています。スライド中では過去の提案がどのような問題意識でなされ、なぜ没になったのか、その辺りの経緯も解説してみました。

サーバーレスは操作的意味論の夢を見るか?

AWS Dev Day Japan 2022 での発表です。公募 CPF 枠で、昨年も登壇しているので 2 年連続の採択になります。

内容としては、サーバレスコンピューティングに対して操作的意味論による基礎づけを行なった 2019 年の Jangda らの論文、Formal foundations of serverless computing について解説しました。OOPSLA '19 の Distinguished Paper にも選出されています。

解説したのはこの論文のうち前半部分、具体的には Section 4 まで相当です。イベントの参加者の大半はこのような形式化には慣れていないことを考え、後半部分のより現実的かつ複雑な意味論を諦める代わりに「操作的意味論とはなにか」「推論規則の読み方」「双模倣の例」といった基本的な事項を解説することを選択しました。もし興味があれば元論文にもチャレンジしてみてください。

ccvanishing.hateblo.jp

また、同じ論文について Qiita に記事を書かれている方も発見しました。こちらの記事は操作的意味論への基本的な知識は仮定されている一方、元論文の前半だけでなく最後のセクションまで満遍なく記事として起こされています。

qiita.com

謎は全て解けた!安楽椅子探偵に捧げる AWS ネットワーク分析入門

CloudNatice Days Tokyo 2022 での発表です。公募 CFP 枠です。

内容は AWS においてネットワークに関するクエリに回答するエンジン Tiros にまつわるものです。Tiros は内部的に SMT ソルバの一種 MonoSAT を使用しており、AWS のネットワーク構造をグラフ構造としてエンコードして MonoSAT に解かせることで、コンポーネント間の到達可能性について推論を行います。

内容としては昨年の AWS Dev Day Online Japan と共通する部分が多いですが、中盤の SMT ソルバに関する一般論と SAT 問題の単調性に関する解説を一部削り、その代わりに前回扱えなかった Blocked Path Analysis の解説を追加してあります。Blocked Path Analysis は SMT ソルバを使用する Tiros の大きな特徴であり、普通にイメージする Packet Probing によるネットワーク検査と比べて明確な挙動の差が生じる部分です。今回 Blocked Path Analysis について解説を追加できたことで、前回のスライドと比較してもより有意義な解説になったと思います。

ccvanishing.hateblo.jp

ccvanishing.hateblo.jp

まとめ

以上、2022 年のスライド一覧とセルフ短評でした。

ところで、Speaker Deck のスライドページをご覧いただくと分かる通り、今年の登壇はスライド閲覧数が異様に少ないのも特徴です。特に CloudNative Days Tokyo 2022 のスライド は、大規模イベントかつ Twitter 上でそれなりに Like されているにもかかわらず、スライド閲覧数が以前の LT の水準にすら達していません。

もともと Speaker Deck の閲覧数は「たまたま界隈の有名人が好意的なコメントをくれた」「はてなブックマークで初動が良かった」といった要素で変動するため、所詮は水物であり、過剰に意識してもいいことはありません。とはいえモチベーションに影響するのも事実なので、現状の登壇 + スライド公開という発表手段を来年以降もメインに据えるかどうかも含め、ちょっと検討しようかなと考えています。情報のストックと検索性という意味では、スライドよりもブログ記事の方が望ましいかもしれませんね。去年も同じことを書いてますが…。

それでは、2023 年も張り切っていきましょう。よろしくお願いいたします。